第1反省〜剥斬の回(1、2話)

前夜


「漫画原作なんだけど、不良のあんちゃんが変身してバイクに乗って戦うようなやつなんだよ。暴走族の仮面ライダーって感じかな」
 20世紀最後の夏。大畑さん(後の監督)からの電話は、そんな切り出しから始まった。オレの頭にまず浮かんだのは『サムライダー』だった(恥)。
 大畑さんとは以前『地球戦隊ファイブマン』という東映の実写ヒーローもので一緒にモンスターデザインをしたことがある。その後も家が近所だからか生活パターンが似てるからか、不思議と偶然よく会った。地元の船橋近辺で。成田空港の出発ロビーで。そういえば最後に会ったのは新宿の
さくらやホビー館だった。
「篠原くんに敵のデザインをやって欲しいんだよ。あんまりアニメを意識せずに、いつもの調子でいいから。10本ぐらいのミニシリーズなんだけど、敵も含めてフィギュアになるといいよねぇ」
 さて、オレはどうにもこの「フィギュア」という言葉に弱い。
かなり弱い。大畑さんとはまた一緒に仕事したいと思っていたから二つ返事でOKしようと思っていたのだが、その言葉のせいで二つどころか1/2返事ぐらいになった。

 製作がスタートして、実際に作業に取り掛かることになったのは9月。その時点で来春1月オンエアということがほぼ決定していた。なにしろアニメは初めてだから、それがキツいのか普通なのかは分からない。ただ、最初の打ち合わせの段階から、メインライターの赤星さんの手によって全体のプロットがほぼ完成していて、自分の担当するキャラクター数はある程度把握できた。2ヶ月でトータル10体+α。週イチちょいで考えればできない数じゃない、そんな風に思っていた。そしてそれは大まちがいだった。

作業開始

 デザイン作業は、まずシリーズ前半に登場する流刑体のラフスケッチを数点ずつ描くことから始まった。特に1話の『剥斬』と、レギュラーキャラクターである『ヴァルチャー』のデザインが優先された。
 ここで最初の問題が生じる。それはオレ自身が「ラフスケッチを大量に起こす」作業がとてもニガテだということだ。アニメ本とかを読んでて、決定デザインの前に相当な数のラフがあるのに驚いていた。「あぁ、あれをやるのだオレも」と悲痛に思った。
 デザイナーとは豊かな発想を豊かなまま提示できる人のことだが、オレの場合はまず発想が乏しい。一つのモノを考えると、一つの結論、つまり自分なりの正解を導き出すことしかできなくなる。理系頭−最近の言葉で言うとずばり「男脳」のせいなんだろうが、それでも
誠意があればなんとかやって来れたのである。監督である大畑さんも元々はデザイナー出身であるから、オレがそういうデザイナーであることは十分承知してくれていた。おそらく数点というのはかなり譲歩した数なのだろう。
 しかも今回デザインを行うにあたって、オレはある戒めを守ることにしていた。それは「絶対にニラサワさんのに似ないようにする」という、非常に分かり易くなおかつ情けないものであったが、オレにとってはかなり重要な戒めである。ご存じの通り韮沢(靖)さんは「クリーチャーデザイン」という肩書きの第一人者だ。しかも普段はごく近いところにいて、だいたい同じような嗜好を持っている。もちろんマネしようとしてマネできるものでもないが、マネしてるつもりじゃないのに似てしまうことも多い。
 そんなただでさえ狭い視野をわざわざ狭めた上で、なおかつ一杯描かなきゃならないというのは、苛酷以外のナニモノでもなかったのである。むろんそれは自ら招いた結果なのだが。


『剥斬』オリジナルデザイン

 さて、『剥斬』である。最も初期の第1話プロットに「手足の回転ノコギリで攻撃を〜」とあって、それに応じて手足の他に頭と胸に回転ノコギリが入っているラフも描いた。頭の中には「フィギュア」という5文字が渦巻いていたので、オモチャにした時にちゃんとノコギリが回転できるような作りにしていた。デザインの段階ではあんまし意味ない行為だし、この「オモチャとして物理的に再現可能な形状」というので後々も苦しみ続けることになる。反省。最終的に胸の回転ノコだけは残り、その可動のために首を無くして頭を肩から支えるという奇妙な形にしたものの、結局1話でこのギミックが使われることはなかった。無駄に線多くしてすいません。大謝罪
 その段階では顔に魚の頭が付いていて、これは当初「流刑体はぜんぶ水モノのモチーフでいこう」と思ってたからなのだが、その後に描いたタガメをモチーフにした顔の案が採用された上に「モロに虫にしよう」と監督に指示され、「いやこれでもうすっかり虫なんですけど」と思いながら悩んでるうちに迷った線がそのままディテールとして残ってしまった。
反省
 ところで実写モノの怪獣の場合は、割と表面の質感に凝ることでリアルに見せたりできるのだが、アニメの場合はそうはいかない。演出を抜きにすれば、形状と色だけで表現するしかない。そう分かっちゃいるんだが、ついつい広く空いてる面を見つけると余計なもの描き込んじゃったりした。色に関しても再現できっこないグラデーションまで使ってて「なんか埋めよう」感がいっぱいである。
小心者

 結局、最終的なデザインで満足できたのは、この『剥斬』の頭にも随行体に似た形状のツノを付けることができた、というところだけだった。実はこれを死守するために『剥斬』は身体の至るところにこのモチーフを繰り返し使っている。じゃあなんでツノを付けなければならなかったのか、というのは、やってる途中ですっかり忘れてしまいました。手段のために目的を忘れるという分かり易い愚行である。猛反省。いや、確かどっちがイイ奴か悪モノか分からなくしようと思っていたような・・・


『剥斬(改)』オリジナルデザイン

 実は作業的にはこの『剥斬(改)』よりもヴァルチャーの方が先で、例によってこのヴァルチャーの作業でも猛反省していたオレは、その教訓を生かしつつ『剥斬』で反省していた点を改良すべく取り組むことになった。その教訓とは、ずばり「人間のプロポーションにこだわらない」である。どうも着ぐるみデザインばっかりやってたせいか、描き方、例えば紙はタテ置きにして描くとか紙の大きさに対する頭身の比率とかが暗黙の了解で定着していたので、そういう根本的なところを考え直す必要があると思ったのだ。
 幸いにも『剥斬(改)』は監督のラフがあり、それがまさに非人間的な理想のシルエットだったので、まずは紙を横に置いて描くところから始めてみたのだが、やってみて改めて分かったのは、それだとちっとも描けなかったのだった。つまり身体が描き方になじみ過ぎてて、今さら他の方法に対応できなかったのである。情けないほど
応用力が無かった。悲しい。

 それ以外のところは、実は割と気に入っている。「フィギュアにした時にダメージパーツとコンパチでできるようにしたい」とか思ってたところが、監督ラフのおかげで払拭されたことも大きい。反省していた『剥斬』のディテールの多さもそれほど文句を言われなかったので(実際の現場ではどうだったか想像に難くないが)、調子にのって実写モノと同じくらいの量の描き込みもした。
 ただし最大の反省は、確かこのころ風邪をひいて体調を崩し、更にヴァルチャーで悩んだせいで進行がかなり遅れ、しかもこの遅れを最後まで引きずることになったことだった。
健康にも注意せねばいかんですな。
 「デザイン画は必ず斜めからの見た目で仕上げるように」と指示されていて、実は全てのデザインは一度正面からの絵を起こした上で斜めパースを描くという手法で描いていたというかそれでしか描けなかったんだが、そんなわけでこの『剥斬(改)』のみ正面からの絵になってます。今からでも描き起こすか、
恥ずかしいから。


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