第2反省〜ヴァルチャーの回(3話)

話は前後するが・・・


 スタジオ・ディーンで行われた1回目の打ち合わせでは、登場が予定されている流刑体のキャラクター的なコンセプトの意見交換が行われた。〜まったくの余談だが、監督はその席上に古今東西のSF・怪獣映画に登場するモンスターを選りすぐった数枚に渡るスケッチを持参しており、つまりそれは「ここはこういう感じで〜」というような話をより潤滑にするための道具であったわけだが、さすが『世界トホホ映画劇場 』という著作まで持っている監督だけあって、オレはそこに描かれたモンスターはおろか映画の存在すら知らなかったものが大半で、「やっぱすげえやこの人は」と本気で思った。〜その打ち合わせの中で出た、何故か流刑体でもないのに自分の作業リストに組み込まれていたレギュラーキャラクター『ヴァルチャー』のコンセプトに惹かれるものがあった。
「『ヴァルチャー』ってのは、『屈折したウルトラマン』なんだよ・・・」

 原作をお読みの方ならご存じの通り『ヴァルチャー』は原作にも登場する重要キャラクターである。主人公である定光はそのまま登場してるわけだから、これも原作のまま登場するのが最も普通というか当り前である。にも拘わらずデザインの発注が来た。ということは必然的に「変えよう」ということである。これは責任が重い。良い意味で原作ファンを裏切れれば最高だが、悪い意味で裏切ってとんでもないことになりかねない。しかも『ヴァルチャー』はヒロインである『神代やよい』の変身体でもある。やよいファンの期待を良い意味で裏切れれば〜(以下略)。
 そんなプレッシャーの中、「いやこれはやっぱり原作のまま行くのがイイですよそうしましょうよ何だったら多少のアレンジはやりますけども全体的なイメージはこのまま行くのがベストじゃないですかどうでしょう?」とあからさまに逃げ腰な姿勢を見せたいところだったのだが、この「屈折したウルトラマン」という響きにグッときてグワッと来ちゃったのである。もちろんここで出た「ウルトラマン」とはウルトラマン「的」なキャラクターという意味であって、決してウルトラマン「風」に、という注文なのではない。だが当然オレにとってグワッときたのはウルトラマンのデザインを手がけた成田亨という
神にも等しい名の方であった。成田デザインに手を出すことは怪獣デザイナーにとっては禁忌の領域である。だがしかし、デザイナーとはリスペクトしつつもそれに唾を吐くことを望まれる唯一の職種でもある。
「ああ唾を吐いてみたい。しかも思う存分、天に向かって唾を吐くのだ。その唾がどれだけ天に近付くのか、この目でこの手で確かめてみたい」
 衝動を抑えることができずに「いいっすねぇ、それでいきましょう」と大きくうなづくオレの頭から、プレッシャーが一掃された。まだその時点では気付いていなかったのだが、つまりこういう状況こそが
魔がさすということなのだ。天に向かって吐かれた唾は、当然自分の顔にかかるのである。


『ヴァルチャー』オリジナルデザイン

 『ヴァルチャー』に関して監督から出た要求はただ一つ。「随行体との親和性もあるから、バイク乗りのイメージを付加したい」というものであった。もちろん大賛成である。極限までそぎ落とされたウルトラマンのスマートさをより良く汚すために必要なのは、無骨なまでの機能美しか無いと思っていた。もちろん具体的にはヘルメット、バトルスーツのイメージである。『ヴァルチャー』はそもそも「着る宇宙船」という設定らしいから、なんとなく「その辺りで落とし込めそう」な気になってくる。折しもシドニーオリンピックでは高橋尚子が金メダルを獲得し、それを見ながら居間のちゃぶ台で作業していたオレは、ついつい自分も天才の域に達してしまった気になっていた。言うまでもなく大勘違いだった。

 もちろん勘違いであったのだから作業は遅々として進まない。原作版のイメージをある程度継承するために、横に大きく張り出したツノ(いわゆるゲッター1みたいなやつ)を持つ頭部のシルエットは残すことにしたのだが、逆に差異のためには「目」があった方がいいと思い、ウルトラマン的なものから、更に一歩進んで高山良策造形風のものまで色々と試してみるのだが、どうにもこれらがヘルメット頭部と相性が悪いのである。もちろん目を無くしてゴーグル風にするのは超ラクチンであるし、実際『デュアルヒーローズ』とか『ミカヅキ』でそんなんばっかやってるので自信もあるわけだが、「ここでチャレンジするのが天才の余裕なんですよ」と大勘違いしたまま、あるはずのない余裕ぶっこいてたのだった。情けないほどの裸の王様ぶりであった。
 結果的には目のついたいくつかの案と、ゴーグル的なものを数点合わせて監督に見てもらい、あっさりゴーグルタイプのものが採用となった。ナニゴトも落ち着くところに落ち着くものですよ。はぁ。自分でも割と気に入ってて「ボツったら別ので使おう」と思ってたやつなので、ちょっと嬉しかったのだが。

 だが問題はそれで終わらない。頭部はいいが、身体の方も残っているのだ。実は採用されたラフは「頭部はこれで、ボディはこっち」という風に別の案からの寄せ集めになっていた。これはことキャラクターデザインの世界ではごく当り前に行われるもので別段珍しくもないのだが、採用されたボディは先述の「目」のついたもの用で、なんとか目を正当化するため(1回目でも同じこと書いてるが)に同じモチーフを繰り返し使っていたのである。余計なサービス精神が足を引っぱった好例ですな。いやもう反省しっぱなし。その後も何度か監督とラフスケッチを交換しながらプロポーションやディテールの調整を行った。面白いことに、最初は額と腰にしかなかった三角錐状のトゲが、監督と意見交換するたびに全身に増殖していき、結果的には全身トゲトゲになった。悪ノリなのか。
 で、今だからバラせることだが、このボディにはウルトラマンの身体の模様がそこはかとなく入ってるのがお分かりになりますでしょうか?って結局パクることしか
できなかったんだね、これが。

 さて、デザイン画で背中に見えるのは羽ではなくジェノサイドガンという武装。とりあえずオプションという事でこれもデザインすることになったのだが、本来「メカデザイン」を苦手としている者からすれば「お手上げですどうしましょう?」的な葛藤と困惑の日々があったわけだが、これを書き出すと本当に自分がプロとしてもうやっていけない気になりそうなので省略。手元にあるデザイン画に「小学生並みなので適当に改変お願いします」と情けないコメントが付いてることから察してほしい。デザイン的には今やってる『デビルマンサイバー』の羽とそう変わらなくて底の浅さも露見してるが、実際にオモチャとして収納可能な形状というのには自ずと限界もあるのである。ってオモチャ化未定なんですけど・・・
 「ジェノサイドガンを装着した状態で蝶に見えたい」という監督の要望もあって、「ゼニシジミ(俗名)みたいに見えるといいかも」ってことでそれ風の模様を連想させるパーツもつけてある。色に関しては全体的に「気分としては真ちゅう色」というイメージでレトロな雰囲気を出してみた。
 ここで賢明な方はお気付きになったろうが、オレは原作の『ヴァルチャー』は
黄色だと、つい最近まで思い込んでいたのである。別に仕事でオチつけるつもりはないんですけどもねぇ。


『駆崙』オリジナルデザイン

「スポーンのバイクみたいなイメージで」
「それは映画版のコクーンバイクですかそれともニトロライダース?」
 というツッコミが業の深さを再確認できるような注文の『駆崙』に関しては、稚作『殺戮王』で生体バイクデザインやった人間としては、比較的楽しく作業できた方だった。確かに原作の『天斬』に替わるものというプレッシャーはあったものの、監督のイメージが割と確固としてできてたので、それほど意識せずに済んだこともありがたい。とりあえず作業してる側に件のニトロライダースなんかのオモチャを出して来て、遊んだり眺めたり遊んだり確認しつつ遊んだりしながら、なるべくそれらに似ないような形のパーツで仕上げた。ちなみに当初はフロントカウルの目は中央寄りでもっと小さかったんだが、分かり易さを重視する意味で、本来こめかみ(?)だったところに大きく配置して最終デザインのようになった。実はその時の顔のパーツは、目を黒く塗りつぶした以外はすべてそのまま残っている。いや、
手抜きじゃないんですよ。まんま『殺戮王』にも見られる尻尾が付いてたり(しかもほとんど同じ形状)して、またまた底の浅いところがまる見えっぽいが、オレ自身は「バイクには尻尾がつきもの」と信じてるので、これでいいのだ。(<ただのバカってこと?)
 「ああでもこれってトライ◯ウラムのパーツ構成とクリソツだわ」と気付くのは、すべての作業がひと段落して、ゆっくりオモチャ屋とかに行けるようになった頃のことだった。
大不覚


第3反省〜涅槃と解脱篇を読んでみる
メニューに戻る